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「あれだけ欲しかったのに、いざ手に入ったら、なんか満たされなかった…」
そんな経験、ありませんか?
『芋粥(いもがゆ)』は、平安時代の説話集『今昔物語集』に収録された物語。
ずっと憧れていた「芋粥(さつまいも入りのおかゆ)」を、ある男がようやく食べられることになるのですが――
手に入った瞬間、なぜか心が満たされない…。
この作品は、そんな「理想と現実のズレ」を、たった数段落で巧みに描いています。
超簡単に!10秒でわかる『芋粥』ってどんな話?
主人公は、地位の低い中年の役人。毎年「芋粥が食べたい」と思いながら、ずっと実現できずにいました。
そんな彼の願いを聞いた上級貴族が、大量の芋粥をふるまってくれることに!
夢にまで見た芋粥が山盛りで出された――
でも、彼はたった一杯だけ食べて、箸を止めてしまいます。
欲しかったはずのものを目の前にしても、食べる気がしない…
それは人間の心のはかなさを描いた、古典らしからぬ“リアルな心理ドラマ”なんです。
【原文】『芋粥』(今昔物語集・巻二十九より)
今は昔、五位にて蔵人なる者ありけり。年三十ばかりにて、色黒く瘦せたりければ、いと見苦しき男なりけり。常に「芋粥食はむ」と思ひけれど、年毎に言ふのみなりて、つひに食はで年を経たりけるを、この男のもとに、ある人の仰せて、「これが芋粥食はむと年ごとに言ふを、食はせばや」と言はせ給ひけり。
されば、あるとき、「芋粥食はせむ」とて仰せられてければ、ただ今作るとて、御厨にてまうで来たり。
芋をよく洗ひて、よく煮て、米の粥の中に入れて、心を尽くして作らせけり。かくて粥を出だして給ぶに、鉢に盛れるを、三つばかり取りて、ただ一鉢をば取りて食ふ。
その形、色黒くてやせたりければ、いと見ぐるしくて、思ひたることもなかりけり。
【現代語訳】いちばんやさしい訳で読んでみよう
昔、五位という位の役人で、蔵人をしていた男がいました。
年は三十歳くらいで、色は黒くやせていて、見た目はあまりよくありませんでした。
彼はいつも「芋粥が食べたい」と思っていたけれど、言うばかりで、実際に食べることはなく何年も過ごしていました。
それを聞いたある上級貴族が、「あの男が毎年芋粥を食べたいと言っているらしい。食べさせてやりたい」と言ってくださったのです。
ある日、「芋粥を食べさせよう」と命じられたので、すぐに御厨(料理場)で芋粥を用意しました。
芋をよく洗って煮て、米の粥の中に混ぜ、心をこめて作ったのです。
そして芋粥を出すと、鉢に山盛りにした粥を三つほど持ってきたのですが、男はたった一鉢しか取らず、それを食べただけでした。
その姿は、色黒でやせ細っていて、あまりにも見苦しかったため、なんだか思っていたほどの満足も得られなかったのです。
文ごとのポイント解説|意味と情景をつかもう
原文 | 意味・背景 |
---|---|
芋粥食はむと思ひけれど | 芋粥を食べたいと思っていたけれど |
年毎に言ふのみなりて | 毎年口にするだけで |
つひに食はで年を経たりける | 結局食べずに何年も過ぎてしまった |
鉢に盛れるを、三つばかり取りて | 鉢に山盛りされたものを3つ出した |
ただ一鉢をば取りて食ふ | しかし、男は1鉢だけを取って食べた |
思ひたることもなかりけり | 思っていたほどの感動もなかった |
人物解説|芋粥の男ってどんな人?
- 職業:五位の蔵人(中級官人)
- 性格:素朴で欲望もささやか。でも現実を見ると弱気になるタイプ
- 象徴:「夢を叶えたのに満たされない」心のリアルを描いた存在
作者・『今昔物語集』とはどんな作品?
- 鎌倉時代初期に成立した説話集
- 「今は昔」で始まる語り口が特徴
- 仏教・風刺・庶民・笑い話まで幅広く収録
- 『芋粥』は人間味あふれるリアルな心理描写で人気
テストに出る語句・問題まとめ
✅ よく出る古語と意味
- 食はむ:食べたいと思う(願望)
- 出だして給ぶ:差し出してくださる
- 盛れる:盛られた(完了)
- 思ひたることもなかりけり:期待していたような感動もなかった
📝 よくあるテスト問題と解答例
- Q. 芋粥をたった一杯しか食べなかった理由は?
- A. 欲しかったはずなのに、いざ目の前にすると食欲がなくなったから。
- Q. この話からわかる教訓は?
- A. 理想を手に入れても、現実が期待どおりとは限らない。
- Q. 男の心情の変化を説明せよ。
- A. 喜んでいたが、現実を見て期待がしぼんでしまった。
覚え方のコツ|ストーリーで古文を覚えよう!
毎年言ってた → やっと叶った → でも微妙だった…
「芋粥=理想」→ 手に入れた瞬間に感じた心のブレーキを覚えておこう!
まとめ|『芋粥』が伝えるメッセージ
欲しいものを手に入れるだけでは、人は満足できない。
理想と現実のズレが、心を満たしてくれない理由になることもある。
現代のSNS時代にも通じる、「憧れと現実」のギャップを見つめ直す作品です。
発展問題にチャレンジ!
- あなたが「ずっと欲しかったけど、手に入れてみたら微妙だったもの」は?
- 理想を持つことは悪いこと?どうすれば「ギャップ」に負けずに生きられる?
- 芋粥の男と似たような経験、あなたの周りにもある?
他作品との比較で深めよう
作品 | 特徴 |
---|---|
芋粥 | 理想と現実のズレを描く説話 |
枕草子 | 日常の観察と感性の記録 |
徒然草 | 人生の真理や人間観察が多い随筆 |